日常の「どうだった?」を深める問いかけ 子どものなぜ?を育む会話のヒント
日常の「どうだった?」を深める問いかけで、子どもの「なぜ?」を引き出す
仕事や家事に追われる日々の中で、お子様との限られた時間の中で質の高いコミュニケーションを図りたいと考える方は多いのではないでしょうか。学校や園から帰ってきたお子様に対して、「今日一日どうだった?」と問いかけることは、ごく自然な親子の会話の始まりです。しかし、多くの場合、その問いかけは「うん、普通だった」「別に」といった短い返答で終わり、そこから会話を広げることに難しさを感じることもあるかもしれません。
この「どうだった?」という日常的な問いかけを少し工夫するだけで、お子様の思考を深め、「なぜ?」という知的な好奇心を引き出すきっかけに変えることができます。本記事では、忙しい中でも実践しやすい具体的な問いかけの例と、それを活用するためのヒントをご紹介します。
なぜ「どうだった?」を深めることが重要なのか
お子様が「どうだった?」の問いに対して表面的な返答で終わるのは、必ずしも話したがらないからではありません。何から話せばよいのか、具体的に何を伝えれば良いのか分からない、という場合があります。ここで親がさらに一歩踏み込んだ問いかけをすることで、お子様は出来事を具体的に振り返り、自分の感情や考えに意識を向ける機会を得ます。これは、思考力や表現力を育む上で非常に重要なプロセスです。
単に事実を羅列するだけでなく、「なぜそう感じたのか」「どうしてそうなったのか」といった問いかけは、お子様が物事の因果関係を理解し、多角的な視点を持つことを促します。忙しい日常の中でも、この「深掘り」の習慣を取り入れることは、お子様の内面的な成長を支える質の高いコミュニケーションへと繋がります。
具体的な問いかけ例と会話の広げ方
日常の様々なシーンで使える、具体的な問いかけの例とその後の会話の広げ方をご紹介します。
1. 感情や出来事の「核」に触れる問いかけ
お子様が体験した出来事の中から、特に印象に残ったことや感情が動いた瞬間に焦点を当てて問いかけます。
- 問いかけ例: 「今日あったことで、一番楽しかったことは何だったかな?それはなぜ楽しかったと思う?」
- 子どもの反応例: 「公園でブランコに乗ったこと!」「だって、一番高くこげたから!」
- 会話の広げ方: 「一番高くこげたんだね。どうしたらそんなに高くこげるようになったのかな?」「他にはどんな風に感じた?」と、達成感や具体的な行動、感覚に焦点を当てて会話を広げます。楽しかった理由を深掘りすることで、お子様は自身の感情と行動の関連性を理解し、言葉にする練習ができます。
2. 日常の選択や行動の「理由」を問う問いかけ
お子様が日中に行った選択や行動について、その背景にある理由や意図を尋ねます。
- 問いかけ例: 「今日の給食で、何が一番美味しかった?どうしてそれが一番美味しかったんだろう?」
- 子どもの反応例: 「カレーライス!」「だって、お肉がいっぱい入っていたから!」
- 会話の広げ方: 「お肉がたくさん入っていたんだね。他のおかずはどうだった?」「もしカレーライスがなかったら、何が一番美味しかったと思う?」と、具体的な要素や他の選択肢を提示することで、比較や分析の視点を促します。味覚だけでなく、食材や調理法への関心にも繋がるかもしれません。
3. 創作物や物語からの「想像力」を刺激する問いかけ
絵本やテレビ番組、お子様が作った作品などについて、登場人物の気持ちや物語の展開の理由を尋ねます。
- 問いかけ例: 「絵本の中のウサギさんが悲しい顔をしているのは、どうしてだと思う?」「もし自分がウサギさんだったら、どうしてほしいかな?」
- 子どもの反応例: 「お友達と喧嘩したからだよ」「早く仲直りしてほしい」
- 会話の広げ方: 「お友達と喧嘩したのかな。どうしたら仲直りできると思う?」と、解決策を一緒に考えたり、「もしウサギさんがこんなことをしたら、どうなると思う?」と物語の続きを想像させたりします。これにより、共感力や論理的思考力、想像力が養われます。
4. 身近な出来事や社会事象からの「意見」を求める問いかけ
日常の身近な出来事や、お子様が見聞きしたニュースなどについて、感想や意見、その理由を尋ねます。
- 問いかけ例: 「今日見た(道で見かけたゴミ、ニュースの出来事など)について、どう感じた?なぜそう感じたのか、理由を教えてくれる?」
- 子どもの反応例: 「なんでゴミが落ちてるんだろうって思った」「きっと誰かがポイって捨てちゃったんだよ」
- 会話の広げ方: 「そうだね、なぜポイ捨てをしてしまうんだろうね?」「ゴミがなくなったら、どんな良いことがあると思う?」と、問題提起とその解決策、あるいは社会的な影響について一緒に考えます。これにより、お子様は社会への関心や倫理観を育むことができます。
忙しい日常で問いかけを活用するテクニック
限られた時間の中でも、これらの問いかけを効果的に取り入れるための具体的なテクニックをご紹介します。
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スキマ時間を活用する:
- 食事中: 食卓は自然と会話が生まれる場です。「この料理はどうしてこんな味がするのかな?」など、食に関する問いかけも有効です。
- お風呂の中: リラックスできる空間では、お子様も心を開きやすくなります。一日の出来事を振り返る問いかけに適しています。
- 寝る前: 一日の終わりは、静かに振り返り、内省する良い機会です。今日一番印象に残ったことや、明日楽しみなことについて尋ねてみましょう。
- 移動中: 電車や車での移動時間は、外部からの刺激が少ないため、じっくりと会話をするのに適しています。窓の外の景色について「あれは何だろう?」「どうしてあんな形をしているんだろう?」といった問いかけも良いでしょう。
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問いかけの姿勢とタイミング:
- 急かさない: お子様がすぐに答えられなくても、焦らずに待つ姿勢が大切です。考える時間を与えましょう。
- 耳を傾ける: お子様の話に心から耳を傾け、途中で遮らずに最後まで聞くことで、安心感を与え、さらに話したい気持ちを引き出します。
- 共感を示す: お子様の感情や考えを否定せず、「そう感じたんだね」「なるほど」と共感の言葉を伝えることで、お子様は自分の考えが受け入れられていると感じ、自信を持って話すようになります。
- 短時間でも質を重視: 長時間話すことよりも、数分でも良いので、お子様が深く考える機会を提供することに意識を向けます。
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「なぜ?」の連鎖を意識する: 一つの問いかけから得られた答えに対し、「なぜそう思うの?」「もし〜だったらどうなるかな?」とさらに問いを重ねることで、思考の深掘りを促します。ただし、尋問のように感じるほどの連鎖は避け、お子様の興味が途切れない範囲で行うことが重要です。
まとめ
お子様との会話は、単なる情報交換の場ではなく、お子様の内面的な成長を育む貴重な機会です。日常の「どうだった?」という問いかけに、少しの工夫を加え、「なぜ?」を促す具体的な問いかけを取り入れることで、お子様の思考力、表現力、そして知的好奇心を大きく伸ばすことができます。
忙しい毎日の中でも、食卓、お風呂、寝る前といった短いスキマ時間を活用し、お子様の話に心から耳を傾ける時間を設けてみてください。一度に完璧を目指す必要はありません。今日の「どうだった?」から、一つでも「なぜ?」に繋がる会話が生まれたら、それはお子様の成長にとってかけがえのない一歩となるはずです。